ストップ・ザ・コイズミ(2)
2004年6月23日
宇佐美 保
では、拙文《ストップ・ザ・コイズミ(1)》を続けます。
そして、養老孟司氏は、前掲の保坂正康氏の“これほど歴史の教訓に意を用いない首相や閣僚の姿勢に基本的な疑問をもっている”との見解同様に、“責任者に対する必罰がない。私のように古い世代は、そこに重大な欠陥を感じます。それが戦前の陸軍の体質だったからです”と次のように書かれています。
…… 小泉首相は、国難に殉ずることへのお気持ちが、とくにお強いとお見受けします。外交官お二人の葬儀の折に、絶句されたところでも、それを強く感じさせられました。特攻隊員への首相の想いも、折に触れて見聞きするところであります。例年の靖国参拝についても、ご自分の信念を可能なかぎり通されている次第を、敬意をもって拝見させていただいております。…… 国に殉じた人を想う気持ちは、国に殉ずることを勧めることとは違います。この前の戦争で、人々はそれをいやというほど感じたのではないでしょうか。できれば、ああいうことは起きてほしくない。…… それにつけても、イラクで亡くなった二人の外交官のことを思います。あの前にテロ組織の公式の言明として、今後は日本をも標的にする、という声明があったと報道されました。外務省の責任ある部署の方々は、それに対して現地になんらかの命を発したのでありましょうか。日常の行動を変えよ、車を変えよ、情報を収集せよ、人員を増加するまで、できれば自衛隊を派遣するまで、行動を慎め。そうした種類の命令が出されたのか否か、最高指揮官たとえば外務大臣は、そのことをチェックされたか、ということです。 わざわざそれを申し上げるのも、この前の戦争が頭にあるからです。亡くなられた奥大使は、イラクの復興援助について、「ここまでやってきて、手を引けますか」とメールに書かれていたと報道されました。現地とは、そういうものです。 ご存知とは思いますが、過去の例を申し上げます。中国との戦争が、ついには世界を相手にする「無謀」といわれる戦争を引き起こしたことは、通説だと思われます。その契機こそが、「現地」であった関東軍の暴走とされています。戦後でこそ「暴走」でしたが、当時の現地の気持ちとしては、「ここまでやってきて、手を引けますか」であったに相違ない。それまでにも、大勢の皇軍の兵士たちを犠牲にしてきているからです。ですからその後の事態は、本来現地の暴走を抑えるべきであったが、抑え損ねた東京の政府の責任ということになっておりましょう。 日本に対するテロ声明後の事態について、あえて申し上げるのは、そうした背景があるからです。 お二人を国難に殉じたとして、祭ることになんの異議もありません。しかしそれを思うと同時に、言いにくいことではありますが、後方の安全地帯にいる人たちが、それなりの責任を果たしたのかどうか、そこのところを、最高指揮官である首相に明らかにしていただきたいと思うのです。 ……葬儀という信賞があって、責任者に対する必罰がない。私のように古い世代は、そこに重大な欠陥を感じます。それが戦前の陸軍の体質だったからです。 …… |
そして、2ヶ月程前のイラクでの人質事件の際は、如何だったでしょうか?
ここに、拙文《イラク人質と拉致問題と武士道》の一部を転記致します。
小泉首相は13日(4月)夜、
「政府としても今年に入って13回退避勧告を出している。多くの国民は真剣に受け止めて頂きたい。これに従わず入ってしまう人がいるようだが、そういうことはしてほしくない」と記者団に述べ、日本人の渡航自粛を強く求めた。 (朝日新聞) |
この結果、日本中を「自己責任論」の嵐が吹き荒れました。
お二人の外交官の死も自己責任ですか?!
先に掲げた養老孟司氏の見解は『拝啓 小泉首相様』との形式で書かれていました。小泉氏からの返事はどうだったのでしょうか?!
そして、お二人を殺害した犯人は、一体何者だったのですか?!
雑誌AERA(2004.5.31)で、軍事ジャーナリスト田岡俊治氏は「外務省報告書の重大疑問と、次のように記述しています。
外務省は米軍誤射説を否定する調査結果をまとめたが、疑問がつのる。 昨年11月29日、イラクのテイクリート南方でCPA(米英暫定占領当局)に派遣されていた奥克彦参事官(当時)らが乗る防弾ランドクルーザーが銃撃され、奥氏と井ノ上正盛3等書記官(同)ら3人が死亡した事件で、外務省は5月12日、この事件の状況、経緯に関する調査結果を発表した。 事件は、「テロである可能性が高い」とし、米軍による誤射説については「政府としても……こうした見方に与するものではない」としている。だが、内容を詳しく見ると、かえってナゾが深まる点がいくつかある。 …… |
以下に、田岡氏の掲げる疑問点を私が箇条書きにしてみました。
1 | ランドクルーザーの左側面に弾痕が集中。しかし、ボンネットの上面にも穴があり、「並走する車からの銃撃」では説明が難しい |
2 |
「ヘルメット着用」の謎 「現場付近の住民によれば襲撃者が民間人の洋服、ケプラータイプのヘルメットを着用していた」…… 鋼鉄よりも強度の高いケブラー繊維は防弾胴衣の中綿などに使われ、それをプラスチックで固めたヘルメットは、米軍など先進国の軍隊が鋼板製の重い鉄カブトに代えて使っている。テロリストがヘルメットをかぶること自体あまりなさそうだから、現地の人々の目撃証言が正しいなら襲撃者は米兵、あるいは占領当局が雇って、護衛などに当たらせているとされる民間警備会社の傭兵など、米軍に近い者の可能性が高い、と考える方が自然に思える。 |
3 |
使用された銃への疑問 遺体に残っていた弾丸の破片から弾は口径7・62ミリ、銃身内の旋条は4条右回り、と推定されている。 しかし、この弾丸は、ロシア製のAK47自動小銃や、RPK軽機関銃(30連発のAK47の銃身を長く太いものに代え、弾倉を45発入りにし、2本の脚を付けたもの)のみならず、米軍の機関銃M240にも使用されている。 機関銃が何型かは、よほど近くで見ないと分からない。高速道路を走る車からの銃撃を見た付近住民が、「RPKだった」と言ったというのは奇妙な話だ。 |
4 |
消えた「130グラム」(の弾丸) 車内と遺体に21発が残ったはずだが、日本での解剖と車の検証では細かい破片しか発見されなかった。 警察庁によれば、弾の破片らしいと分かったものは49点でその重量は計35・1グラムだった。RPK機関銃、AK47小銃が使う弾丸(M43)の重さは7・9グラムだから、車内には計165・9グラムの弾が入ったはずだ。……この差130・8グラムはどこへ消えたのか。 …… 米軍による誤射を疑う民主党の国会議員の間では、「その間に米軍が車内の弾を回収したから、小さい破片しか残っていないのでは」との推理が出る。 また遺体に残った破片はいずれも小さかったから、「装甲板や防弾ガラスを貫通して速度が落ち、飛び散った微細な金属片で人間が致命傷を負うだろうか」との疑問もある。…… |
5 | 昨年9月18日にはイタリア人外交官の車がテイクリート近くで米軍の車列に接近したところ射撃を受け、イラク人通訳が死亡する事件も起きており、この事件は今後も、テロか誤射かの議論が続くことになりそうだ。 |
この様に、田岡氏は“この事件は今後も、テロか誤射かの議論が続くことになりそうだ”と記述していたのですが、外務省は、最も重要な証拠品である車を処分して、この事件の幕引きを企んでいます。
(朝日新聞:6月16日)
外務省は15日、昨年11月にイラクで殺害された奥克彦大使、井ノ上正盛書記官が襲撃事件時に乗っていた車両を報道陣に公開した。36発の弾痕や、車中に残る血痕が、銃撃のすさまじさを物語る。現地から3月4日に成田空港に輸送されて以来、警視庁が管理していたが、同庁の検証が終わったため外務省に返還された。2人の遺族とも相談の上で、近く廃棄処分される方向だ。 |
お二人の遺族の方が、外務省から車の処分の相談を持ちかけられたときに、「NO!」と云うことが出来ますか?!
全て、何事もなかったとして、事件を葬り、責任の所在をうやむやにしてしまうのでしょう。
何故この国は、役人政治家の責任問題がうやむやにされてしまうのでしょうか?
何度も拙文にて、「年金制度の崩壊の最大原因は、積立金の運営を蔑ろにした点にある」と何度も書き、この崩壊に荷担した役人政治家の責任追及が、制度の改革よりも急務であることを訴え続けてきました。
(拙文《年金ジャーナリスト岩瀬達哉氏の大罪》等を御参照下さい)
なにしろ、今の日本は、トップに座る人間が“人生色々” と、自ら反省責任を取ることを率先して回避し、「たがが弛みっぱなし状態」に在るようです。
毎日新聞には、次のように書かれています。
みずほフィナンシャルグループ(FG)は04年3月期決算での黒字転換を機に、退職する役員への退職慰労金を復活させることを決めた。2年前にさかのぼって、統合前の旧興銀、富士銀、第一勧業銀3行の最高経営責任者(CEO)にも支払う方針だが、公的資金返済前の退職慰労金復活に、竹中平蔵金融・経済財政担当相が28日の閣議後の会見で、「説明のつくようにしてほしい」と注文をつけるなど、波紋を広げている。…… 前田晃伸社長は24日の決算発表の席上で退職慰労金の復活を表明。「02〜03年に退職した役員も対象に入る」と明言した。 (5月29日付け) |
みずほフィナンシャルグループ(FG)が、凍結していた役員退職慰労金を2年前にさかのぼって復活すると表明していた問題で、対象者のうち、統合前の3行の元頭取が受け取りを辞退する意向を伝えていることが8日、分かった。世論の反発を受けて決断したとみられ、みずほ側も今回は3人への支給を見送る方向で調整を始めた。他の退職役員へは支払われる模様だ。…… (6月9日付け) |
そして、ついには、biglobeニュース(TBS)には次の記述が出てきます。
みずほフィナンシャルグループが25日、株主総会を開き、事実上元役員40人近くの退職慰労金、いわゆる退職金の復活が決まりました。株主からは批判も相次ぎました。 この日明らかにされたのは元役員40人近くのうち7人に支払われる退職金の額あわせて3900万円です。 …… しかし、みずほに対してはこれまでにあわせて2兆9490億円の公的資金が投入されました。みずほは6750億円を返しましたが、残る2兆円あまりの返済がまだ残っているのです。…… 巨額の公的資金投入。金融庁は「もし万が一、回収できない場合は、補てんのために税金が使われる可能性もある」と話しています。(25日 17:01) |
銀行が黒字転換したと云っても、「公的資金(税金)注入」と「我々に負担を強いる低金利政策」の恩恵に起因するのではありませんか!
それに今回の前田晃伸社長の行動は、恰も自分が退職した際の退職金を確保する為の布石とも感じます。
更に、最近次々露呈している三菱自動車の事件に関して、『週刊ポスト(2004.7.2)』は次のように記述しています。
…… 三菱自動車が6月2日に発表した93年以降の乗用車に関するリコールの費用は約25億円、02年の母子死傷事件に端を発する「ハブ」破損にかかる費用は約65億円とされている。ひとつのリコールは、その企業の利益を一瞬にして吹き飛ばしてしまうことにつながる。だからこそ、当時の経営陣は″見て見ぬふり″を決め込んだのである。 しかし、その裏側で、カネは流れるところには流れていた――。 三菱自動車の管理部門に長らく身を置いていた元役員が、本誌の取材に重い口を開いた。 「リコールを隠し続けている最中でも、経営トップをはじめ、退任した役員には規定通りの退職金が支払われていました。6月10日に逮捕された河添克彦元社長や横川文一、村田有造の元副社長2人も受け取っています。中でも群を抜いていたのが、三菱自動車の”ドン”といわれた中村裕一元会長でした」 一拍置いて、こう続けた。 「会長を退き、相談役となった際の退職金の額は約6億円に上ります。つまり、三菱はリコール費用を惜しみながら隠蔽を続ける一方で、巨額の退職金を支払っていたのです。三菱自動車という会社がいかにユーザーの方を向いていなかったのかを示す何よりの証左ですよ」 6月16日の会見で岡崎会長は、これまでのリコール発表を踏まえて、「全部膿は出た」と語った。 だが、この内部告発を聞く限り、決して″膿″は出尽くしていない。 …… 前出の元役員は「一連の不祥事は歴代の経営陣こそが”引き起こした〃人災〃だ」と指摘する。 「中村氏の後に続いた社長は、いくら自主性を発揮しようにも、中村氏が首を縦に振らなければ何も決められないようになっていた。ドンを恐れる余り、都合の悪いことは報告しないような雰囲気が広がってしまった。それが、隠蔽体質につながっていったのです。その意味で、一般の社員は犠牲者ですよ。本来、経営者がとるべき責任が賃金カットという形で社員に押し付けられるのは正直、忍びない。 中村氏をはじめ、リコール隠しが姶まって以降の経営陣は、退職金を返還するのが当然だと思います」 …… |
私も「中村氏をはじめ、リコール隠しが姶まって以降の経営陣は、退職金を返還するのが当然だ」と思います。
そして、この記事のように、「自分の高額な退職金を確保する為に、不祥事を隠蔽し、粉飾してしまう」傾向は、最近の日本にあまりにも横行しているのではありませんか!?
「ドンを恐れる余り、都合の悪いことは報告しないような雰囲気が広がってしまった。……その意味で、一般の社員は犠牲者ですよ。」と、三菱自動車の管理部門に長らく身を置いていた元役員が語ったそうですが、考え違いをして貰っては困ります。
犠牲者は、「一般の社員」ではなくて、私達顧客であり、又、事故の巻き添えとなった不幸な方々です。
三菱の社員は「ドン」に立ち向かうべきでした。
それが出来なかったら、「内部告発」をすべきでした。
ところが、肝心な「内部告発者」を保護すべき法律は、誰を保護する為に作ろうとしているのか理解に苦しみます。
毎日新聞(6月15日付け)には次のように書かれています。
…… 14日に成立した公益通報者保護法は、企業や官公庁の不祥事に対する内部告発者を解雇などから守る初の本格的な法整備となるが、法律の策定過程では一貫して、マスコミなど外部への情報流出をできるだけ避け、企業内部で問題解決を図ろうという政府の意図が見え隠れした。 …… しかし、成立した法律を見ると、確かに市民団体やマスコミなど外部への通報の道は設けられているが、優先順位は「労務提供先」(組織内部)、次いで「監督官庁」で、最後が「外部通報」。外部通報には組織内で証拠隠滅のおそれがあるなど、いくつものハードルが置かれている。 …… |
そして、この法律は「報道機関、消費者団体など外部への通報には「内部通報では証拠隠滅のおそれがあること」など一定の要件を課した」ものであって、その要件を次に掲げます。
<解雇の無効>次の各号に掲げる場合、公益通報をしたことを理由とする解雇は無効とする。また、降格、減給など不利益な取り扱いをしてはならない。 …… 三 通報対象事実が生じ、またはまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由があり、かつ、次のいずれかに該当する場合、通報対象事実の発生または被害の拡大を防止するために必要であると認められる者(外部)に対する公益通報 イ 労務提供先や行政機関に公益通報をすれば解雇その他不利益な取り扱いを受けると信ずるに足りる相当の理由がある場合 ロ 労務提供先に公益通報をすれば証拠が隠滅され、偽造され、または変造される恐れがあると信ずるに足りる相当の理由がある場合 ハ 労務提供先から、行政機関への公益通報をしないことを正当な理由がなくて要求された場合 ニ 書面により労務提供先への公益通報をした日から20日を経過しても調査を行う旨の通知がない場合、または労務提供先が正当な理由がなくて調査を行わない場合 ホ 個人の生命または身体に危害が発生し、または発生する急迫した危険があると信ずるに足りる相当の理由がある場合 |
この様な“信ずるに足りる相当の理由がある場合”とか“正当な理由がなく”等という判断を、自分の会社を告発する人達にとって可能でしょうか?
告発した結果、“信ずるに足りる相当の理由がある場合”とか“正当な理由がなく”が否定されてしまったら、告発者の身柄はどうなるのですか!?
役人政治家達は、誰の為の法律を作っているのですか?!
(但し、経営者側を護る法律として、「リコール向け内部留保金への特別税制免除」などは存在するのでしょうか?)
三菱自動車の例のみならず、自分の勤務する会社への告発ですら思うに任せないものです。
そして、自衛隊がイラクへ派兵されてしまった既成事実の下では、「自衛隊のイラク派遣反対」と唱えることが困難な状態に陥ります。
(拙文《ストップ・ザ・コイズミ(1)を御参照下さい》)
況わんや、始まってしまった戦争に「NO!」と宣言することは誠に至難なことなのです。
作家松本侑子氏が、村山由佳著『星々の舟』(文芸春秋社)を次のように紹介しています。
……著者は最後の章「名の木散る」で、加害者としての日中戦争をテーマにしている。 主人公は一家の父、重之だ。彼は、高校で戦争体験を話してほしいと頼まれる。 …… だが重之は、孫娘もいる学校で、やすやすと語ることができない。 中国へ出征した彼は、絶対服従の厳しい上官に命じられて仕方なく、捕虜となった中国人の男の子を、母を呼んで泣くその少年を刺し殺した。連行された朝鮮人の娘を慰安所で抱き、乱暴され酷使される彼女への同情からほのかな恋心を持つようになるが、日本兵に逆らった彼女は吊るされ、腹を裂かれて虐殺される。そうした重い記憶に、重之は口ごもる。…… しかしそれでも自分の命の残りが少ないことに気がついた重之は、語りはじめる。…… ここには戦争加害者として日本人がおこなったこと、戦争がふつうの青年を残虐な兵士へ変えていく過程、戦後もその記憶を忘れられなかった男の苦しみが描かれている。 …… というのも戦争の被害は人に話せても、自分の加害行為を語る人は多くはない。多くの元兵士たちはかたく口をとざしたまま、独りで苦しみ、過去をあの世へ持っていく。口をひらく重之は、まれな例かもしれない。 では、重之はなぜあえて口をひらいたのか。それは、二度と同じ過ちをくり返してほしくないという一念からだ。 重之が大陸でしたことを語ったあと、男子生徒が質問する。 「どうして誰も、戦争はいやだって言わなかったんですか?」「行きたくないとか、息子を行かせたくないとか、なんで誰も声をあげなかったんだろう」 無邪気な問いかけに、重之は、そういう時代ではなかったと言いかけてから、「そうだな、本当に、そうだ。あんたらは、頼む。ちゃんと声をあげてくれ」と告げる。 重之の言葉は、二十一世紀の今、この小説を読むすべての読者にむかって発せられている。著者、村山さんの父上は戦後シベリアに抑留されていたという。私は重之の声を、あるいは父君の声を、「頼む。ちゃんと声をあげてくれ」という声を聞いた。胸に響いた。だからこの原稿の執筆を引き受け、ここに書くことにした。一人一人の物書きは微力ではある。しかし小説は時をこえて、小さな声で、しかし雄弁に語り続けるのだ、戦争の虚しさを。 |
この「男子生徒」の「どうして誰も、戦争はいやだって言わなかったんですか?」「行きたくないとか、息子を行かせたくないとか、なんで誰も声をあげなかったんだろう」は真実の声です。
しかし、重之の言いかけた「そういう時代ではなかった」は、その時代の全ての大人の声です。
そして、全ての大人(「戦争反対」を獄中でも訴えて続けて亡くなられもした、ほんの少数の方々以外)は、言えなかったのです。
全体が「一枚岩!」の号令の下で動いている際に、その「一枚岩!」体制、方針に「NO!」の声を上げるのは、一般的には不可能なのです。
先に掲げた、三菱自動車の場合でも、「ドンを恐れる余り、都合の悪いことは報告しないような雰囲気が広がってしまった」その中で、「ドンに楯突く」社員は皆無だったのです。
更には、(小泉氏の第2回目の訪朝前まで)「拉致議連」などに関連した機関、人達の方針発言に異議を唱えた方が居られたでしょうか?!
(私の記憶している限りでは、田中知事が一度、異議を唱えただけでした。)
ですから、私達は「あんたらは、頼む。ちゃんと声をあげてくれ」と言われているのですから、少なくも声を上げられる今の時代に「ちゃんと声をあげる」べきなのです。
声を上げられない時代が来てからでは遅いのです。
(そして、私も、ささやかながら自分のホームページを立ち上げて、小さな声を発しているのです。)
それにしても、上記の松本侑子氏と同様に作家である森詠氏は、次のように書かれています。
9・11のニューヨーク・テロの衝撃から、ぼくはまだ十分に脱していない。 二年以上経ったいまでも、雲ひとつない青空にそびえ立つ、世界貿易センタービルの横腹にジェット旅客機がゆっくりと突入し、黒煙と炎が噴き出す光景がはっきりと目に浮かぶ。まるで映画の一シーンのように、その映像は鮮明だった。 ツィン・タワーから人間の姿がばらばらと落下し、ビル全体が噴煙を上げながら崩壊する。あの光景の映像を見てしまうと、衝撃のあまりに言葉を失い、書くことが空しく思える。空虚感、虚脱感に襲われ、何も考えたくなくなる。 人間の理性や博愛の精神、人間の未来の幸せや無限の可能性、平和な、より良い世界の到来への期待、そんなものをぼくは固く信じていた。それらが、あのテロ事件によって、粉々に打ち砕かれてしまったように思う。 9・11以前の世界と、それ以後の世界が確実に変わった。それともぼく自身が変わったのか? 直接に関係のないぼくがそんな状態なのだから、あのテロで亡くなった約三〇〇〇人のアメリカ人や日本人等の家族や友人たちが受けた怒りや悲しみ、無念さはいかなるものだったのか、想像にあまりある。 |
私は、(「シンキロウ」と云われていた前首相程ではないにしても、)この森氏の「脳天気さ」に驚愕しました。
9.11の復讐の如くに、アフガニスタン、イラクの人々は何万にも殺されているのです。
「9・11のニューヨーク・テロ」については、拙文《9・11の同時多発テロを今思うと》に書きました以下の箇所を抜粋します。
確かに、世界貿易センタービル内の人々の救出に向かった消防士343人を含めて2792人の多くの方々が犠牲になられたのですから。
そして、その悲惨な状況がテレビでも放映されたのですから、このような米国人の気持ちを理解出来ないわけではありません。
しかし、2001年12月13日米国防総省によって公開されたビンラディンが関与したことを示すというビデオテープ(アフガニスタン東部の町ジャララバードにある民家で発見されたという)の中では、ビンラディンは次のように語っているのです。
我々は事前に、タワー(ニューヨークの世界貿易センター)の位置に基づいて、殺される敵の死傷者数を計算した。(飛行機が)ぶつかるのは3階分か4階分だと計算した。私の計算が一番楽観的だったが、この分野の私の経験に照らして、航空機燃料から発生する火災がビルの鉄の枠組みを溶かし、飛行機がぶつかったところとそのその階だけが崩壊するだろうと思っていた。我々が望むのは最大限でこのくらいだった |
事実、ビンラディンならずとも、2棟の世界貿易センタービルに突っ込んだ飛行機衝突状況を、現場で、そしてテレビ画面を通して目撃した世界中の方々の中で、あの悲惨なビルの崩壊を予測出来た人がいたでしょうか?
(崩壊した後なら、その崩壊原因を推測する事は、さほど困難ではありませんが。)
従いまして、あの2棟の世界貿易センタービルの崩壊は、テロが原因で発生した事故と解釈すべきではないでしょうか?
(勿論、犠牲者の方々、又、その後関係者の方々へは、このような発言は不謹慎とも思われますが、事実認識としては、「テロが原因で発生した事故」として解釈すべきと存じます。)
ですから、私達が衝撃を受けたのは「貿易センタービルで発生した事故」なのです。
若し、ビンラディンの目論見通りに「飛行機がぶつかったところとそのその階だけが崩壊」との結果に終わっていたら、世界の、アメリカ国民の、そして、その際亡くなられたご家族達の非難は、ビンラディンではなく、ブッシュ政権に向けられていたはずです。
なにしろ、テロへの警戒を怠っていたのですから!
従って、私は森氏と異なり、9.11の衝撃よりも、その後に、アフガニスタン、イラクに対して行ったブッシュ政権の残虐行為に衝撃を受けているのです。
それに、森氏は、原爆の被害をお忘れですか?!
毎日新聞(6月22日付け)には、次の記事があります。
中曽根康弘元首相が回顧録「自省録−歴史法廷の被告として−」を25日に新潮社から出版する。中曽根氏は佐藤内閣で防衛庁長官を務めた70年当時、核武装の可能性を同庁に研究させた秘話を紹介。「2000億円、5年以内でできる」との結論を得たことを明らかにしている。…… |
一体、日本はどうなってしまったのですか?!
数年前でしたら、いくら回顧録とは言え、世論の大反撃を恐れて、中曽根氏がこの様な秘話を紹介することはなかったでしょう。
又、原水禁のホームページには次の記事が載っています。
(http://www.gensuikin.org/nw/mm_jpu.htm)
……ここに訳出したのは、マサチューセッツ工科大学(MIT)の物理学者マービン・ミラーが米国の民間団体『核管理研究所(NCI)』のセミナーで行った報告の原稿である。セミナーが開かれたのは、自由党の小沢一郎党首が、日本は数千発の核兵器を作るプルトニウムを持っていると中国に警告したとの発言をしたとされる4月6日にから遡ること10日前の、2002年3月27日のことである。ミラーは、1984年から86年まで米国政府の「軍備管理・軍縮局(ACDA)」で勤めた他、「国際原子力機関(IAEA)」、米国エネルギー省、それにロスアラモスとリバモアの核兵器研究所のコンサルタントとしても活動してきた経歴の持ち主である。現在は、MIT国際研究センター安全保障プログラム及び同核工学部の名誉高級研究科学者の地位にある。…… 特に、日本が有している原子炉級プルトニウム(RGPu)のストックの使用の可能性について注目する。私の結論は、日本は、そのRGPuを使って信頼性のある高い威力の核兵器を作ることができるが、他の核分裂性物質のストックを使うこともできる、というものである。技術的観点からいえば、日本は、潜在的核保有国である。」…… |
ですから、日本は「潜在的核保有国」地位を有する為にも、原子力発電に多くを依存し、特に、「高速増殖炉」に執着しているのかもしれません。
そして、先ほどの毎日新聞の記事は次のように結ばれています。
中曽根氏自身は核武装は、他の諸国が核武装する引き金になり、核拡散防止条約(NPT)体制の崩壊につながるなどを理由に否定的。ただ回顧録には「アメリカが日本のための核防護をやめることになった場合は話は別」とも記している。 |
中曽根氏も、「アメリカが日本のための核防護をやめることになった場合は」日本も核武装するお積りのようです。
中曽根氏は、なんと危険な方ではありませんか!?
そして、マヌケな方ではありませんか!?
「アメリカが日本のための核防護をやめる」時は、日本がアメリカに嫌われた時でしょう。
だとしたら、今の北朝鮮のように、核放棄を迫られ、原子力発電までストップさせられるでしょう。
うっかりしたら、イラクのように日本中に爆弾を投下されかねません。
(この点からも、日本の発電の多くを原子力に依存するのも問題です。)
それなのに、江川紹子氏は、次のように書かれています。……
(おことわり)
前文同様に、あまりに長文となりましたので、この辺で一旦中断しまして、続きを「ストップ・ザ・コイズミ(3)」に掲げようと存じます。